岡山弁の教官の罵倒を聞き、ヤンキー教習生のコール動画の音を聞き疲弊しきっていた時の事だった。
教習が終わる頃、聞こえるはずのない標準語が聞こえてきたのだ。岡山の山の中に関東の人がいるわけない、幻聴ではないかと思ってしまうくらい疲れ切っていた。
そこには同世代位の青年がいた。聞けば東京からわざわざ来ていて、年もほぼ同い年だった。彼の名前は元さん。もし俺がワンピースのルフィなら元さんは俺の海賊団に加えたいと思った。
ちょうどお互い将棋が好きだった事もあり、俺達はロビーの岩に腰掛けて将棋をしたりして遊んだ。
元さんと仲良くなった頃、時を同じくして、まるせんという男とも仲良くなった。聞けば彼は漫画家だという。ただならぬ雰囲気で、漫画にかける情熱が只事ではなかった。俺が他人から胆力を感じることは少ないけども、彼からは底知れぬ胆力を感じた。
こうして仲のいい友人を得た俺は暗い教習生活に光を見い出したのだった。
⇒希望を捨てないで!
そういえば、まるせんもヒステリックババアと良く教習になっていたらしくこんな話を聞いた。
壁に向かって教習生がアクセルを踏み続け、教官が足元のブレーキを踏みギリギリで止まる、というような教習の事だった。教習車なので助手席にもブレーキがついている。
まるせんはアクセルを踏み続けた。普通ならここで教官がブレーキを踏むのだが、ひよってアクセルから足を離した!見兼ねたヒステリックババアは自らアクセルを踏んだ!そして怖くなったまるせんは、あろうことか教官側のブレーキを踏んだのだ!
ヒステリックババアは「どうしてあなたが踏むの!!!」と耳元で激怒したらしい。教官側のブレーキを教習生が踏むのは前代未聞の珍事だ。教習車の中で教習生と教官の足がクロスする!まさにクロスカウンターだ。
やっぱり芸術肌の人間は違うなと思わされた。
元さんの方は、「どうしてあなたは岡山に?」と訪ねると、「俺の好きなアニメの舞台が倉敷でさ!どうしても倉敷に行きたかったんだよね!」と爽やかな笑顔で返してくれた。
ただ、ここは津山よりさらに山に入ったド田舎で教習所から駅まで歩いても30分はかかるうえ、電車で倉敷まで行くにはあまりに遠すぎた。
結局元さんが倉敷に辿り着く事はなかった。
こうして、皆んなの希望を打ち砕きながら教習生活は終わりを迎えていく。
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